短編文画4 三大ハラスメント完全制覇(R18)
1
おっかしいなぁ。そんなはずないんだけどな。どうしてこうなっちゃうんだろ。いつもはうまくいくんだけどなぁ。
でもさ、そんなこと言ってもこれ見てよ。ぜんぜんじゃん。どうすんのよ、このハゲ。
ハゲじゃねえわ。ぼうずだわ。
たみちゃんは半分くらいまで吸ったセブンスターを足元へ投げ捨て、蹴飛ばした。
火ついてんだろ。あぶねえだろ。
はぁ、あんなんすぐ消えるっしょ。
いくおは気になって蹴られた先のソファの前に行き、テーブルにあったビール缶の底でぐりぐりした。
ばかじゃん。どうせなら拾えやー。
灰皿ないわー。
たみちゃんはそのいくおの台詞を鼻で笑った。
拾ってコレクションにすりゃいいじゃん。わたしの唾液つきだよ。オナニーのネタにすれやー。
ああ、そういやそういう手があったか、といくおは素直に思った。たみちゃんの唾液を舐めたり吸ったり嗅いだりできるのならいいネタになる。
ねぇ、パンツちょうだいよ。ボロボロのもう捨てるようなやつでいいからさ・
は? んなもんあげるわけないっしょ。っていうか勃たないやつに言われたかねえわ。
そうなのだ。その通り。返す言葉もなくいくおはうな垂れた。せっかくの待ちに待ったたみちゃんとのセックスなのに、肝心のあそこが勃たないという最悪の事態。オナニーでは散々お世話になってきたのに。頭の中でのセックスでは、何度も何度もたみちゃんをイカせてきた。
緊張からかもしれない。あまりに現実味がない。百回以上妄想をしてシミュレーションを繰り返して射精もしてきたのに、いざ実物を目の前にすると、いやいやこれはこれはとかしこまって萎縮してしまう。
勃たせてみろやー。女ならできんだろ。
は? なに? インポの分際で。
インポじゃねえわ。あー、他の女だったら勃つのになー。
あ、それ、ムカつくわ。じゃあ、勃たせてみせてやんよ。見とけー。
そう言ってたみちゃんはいくおの目の前にケツを突き出し、肛門とマンコを見せながら指で小陰唇、大陰唇を広げたりくちゅくちゅさせたりした。
おぉっ、といくおは心が躍り、股間もぴくんと反応した。
おしっこ出せやー。
自分の性癖をたみちゃんに求める。
あ? なにそれ?
いいから出してよ。飲むから。
そう言っていくおはマンコごとびらびら一帯に口をつけて吸った。
やがて温かい液体が洩れ出てきて、いくおはそれをこぼさないようにずるずるとすすり、喉を鳴らして飲んだ。
おいしいわー。じゃあ、こんどはうんこおねがい。
おしっこが出切ってマンコから口を離すと、いくおはさらにそう要求した。
は? ちょっともうなに? スカトロじゃん。キモ。
見ると、いくおのモノは勃起して反り返っていた。
つーか、勃ってんじゃん。それ挿れろよ。
あっといくおも気づいて、慌ててたみちゃんのマンコに突っ込んだ。
おっ! でっか! コリコリも気持ちいー!
バックから突きながら、いくおは親指でたみちゃんの肛門を押し広げていた。この中から出てくるうんこを見たい舐めたいと思いながらばんばんピストン運動をしていた。
いっくぅーーー!
むちゃむちゃに腰を振っていると、たみちゃんはそう絶叫し、マン汁が溢れてきて尻に鳥肌が立ち、十秒ほどしてから動かなくなった。いくおはパンパンとピストン運動をし続けた。だが、次第にその勢いが弱まってきた。
ダメだ。イケない。なんなんだ。気持ちいいちゃあいいのに、たみちゃんだけイってこっちは気配もない。
ごめん。やっぱうんこ出してくんない?
しばらくしてからいくおはそう伝えた。
……キモいっつーの。ちょっとドン引きなんだけど。
腰を引いてたみちゃんはモノをマンコから抜き、枕の脇にあったティッシュで股間を拭いた。
ああ、拭くなよー、と思って慌てて手を叩きながらコールした。
うんこ! うんこ!
そんなん業者に頼めや! キモいわー。
たみちゃんはそこらへんに放り投げてあったパンツを拾って履き、黒いスカートとミッキーマウスの白いTシャツを着た。
業者って?
ベージュのブラを床から引っ掴んで鞄の中にねじ込む。
スカトロ業者。そういうお店に行けやー。
そんなんちゃうわー。たみちゃんのうんこじゃなきゃダメなんだよー!
アホかー、死ねやー!
そう言い捨てて、バターン! とドアを思い切り閉めて出て行った。
ああ、もうダメだ。明日の会議でどういう顔をすればいいか分からない。たみちゃんは斜め前の席が定位置で、いつもボールペンの先でマスクをいじくっている。
おしっこおいしかったなー。雨水で薄めたドブみたいな味だったけど、それはそれでそれなりにダシが出てる感じでよかった。
うんこ、うんこ、マンコよりうんこ。
ああ、前はこんなこと思わなかったのになぁ。マンコにちんこを突っ込めればいいと単純にそう考えていた。でも、現実はそんなにシンプルではなかったし、ノーマルでもなかった。
原因は肛門を見てしまったことだ。あまりにも美しい形と皴だった。あんな完璧な肛門はいまだかつて見たことがない。それは、その奥にあるもののことを考えざるをえない存在だった。
あれはもう、奇跡だ。
2
いくおはトイレにカメラを仕込むことにした。とりあえず、様子を見たいのだ。その、たみちゃんの尻の穴からうんこが出るその様子を。
朝六時半に会社に出社し、女子トイレに潜入し、アマゾンで買った超小型カメラを便器の後ろの裏側に貼り付けた。女子は便器を上げることがないから、ここにつけておけばバレることなどない。
へっへっへと笑いながらオフィスに戻り、いくおは自分のデスクに座るとパソコンを立ち上げた。まだ誰も来ていなかったから、エロサイトに繋いで音量をマックスにしてだらだら見た。誰かが来た瞬間止めればいい。仕事をしていたふりをするのだ。
そんなことをしているうちに眠くなってきてしまい、やがて意識が途切れた。
いくおが目が覚めたのは二時間後で、まわりがザワザワしている感じがしてゆっくりと目を開けた。パソコンの画面にはまだどこかのアダルトビデオをコピーして持ってきたような動画が爆音で流れ続けている。
あ、おはようございます。
ああーん、おちんぽ気持ちいぃ!
寝てらっしゃったんで、起こすのもあれかと。
一年後輩の柳崎が、ずれて鼻が出ていたマスクを直しつつ、そう言った。
いっくぅー! ああーん、もっとおまんこ壊れるくらい突いてー!
ああ、そうだ。こないだの平川へ出す見積書できた?
いくおはマウスをカチッとクリックして動画を停め、右上の×ボタンでエロサイトを閉じた。
朝からそういうの見られるんですね。
ああ、まあ。
お元気ですねー。俺なんか朝からそういう気にはなれないですね。
朝でも晩でも関係ないよ。
思春期かよ!
いいタイミングでのツッコミで、いくおは思わず笑ってしまった。
いいサイト教えてやるよ。
っていうか、そういうのどっかよそでやってくれません?
僕の隣のデスクの右村奈々が、ドスのきいた声で言い放った。
あ、そうすね。セクハラっすよね。これモロ。
そうかな。ある意味コミュニケーションだよ。
マズいですって。もうやめましょう、吉枝さん。
そっかなあ。そんなの言ってたらあの女子トークって何なの? 男入れさせないで勝手に盛り上がって。あれこそさ、逆セクハラじゃないかな。
逆セクハラ?
そうそう。男のセクハラの女子版。女による男への嫌がらせだよ。
は? 吉枝さん、意味分かんないんすけど。っていうか、会社でAV大音量で観てる時点で普通ならもうアウトだと思うですけど。
右村奈々は細く吊り上がった目をさらに細めて吊り上げ、いくおをにらみつけた。
あれは事故だよ。見積もりの資料見ているうちに勝手にネットが立ち上がって勝手にアダルトサイトにつながっちゃったんだよ。
いくおは堂々とそう言い切る。
そんなパソコンありません。勝手にアダルトサイト立ち上げるパソコンなんてあるわけないでしょ。
あー、コンピュータウィルスかもしれない。なんだったけ、あのなんとかテロみたいな。
サイバー攻撃、と柳崎が助言する。
ああ、そう、それそれ。うちのホームページがたぶんそのサイバー攻撃されて、俺のパソコンがハッキングされてアダルトサイトをむりやり開かさせられたんだよ。
あー、分かりました。じゃあ、業者呼んどきますね。吉枝さん、それ業者に説明してくださいよ。
ったく、めんどくせっ、と思いつつ、その業者という言葉できのうのたみちゃんとのことを思い出して、いくおはうんこプレイができる業者を調べておこうと考えた。
あーあ、右村さん怒っちゃってますよ。こりゃ訴えられてもおかしくないっすね。
柳崎にそう言われて、いくおは腹が立った。
なもん、勝手に訴えりゃいいんだよ。事故なんだから、しょうがないっつーの。
そう言えばたみちゃんはどこだろう、といくおはオフィスの中を見渡した。あの尻と完全なる肛門の持ち主の顔を明るいところでもう一度見てみたい。しかし、たみちゃんの姿はどこにも見当たらなかった。
そいえば鷲見さんは?
たみちゃんさんなら、押田事務所です。
コーヒーを飲みながらスマホをいじっていた笹村たくみが横からそう答えた。
表紙の打ち合わせっすよ。吉枝さんがエロサイト見ながら居眠りしてる間に出勤して、とっくに仕事に出て行っちゃってますよ。
笹村はとにかく嫌味を言わずにはいられない性格で、いくおはいつもやり玉にあげられていた。
見てたんじゃねえわ。ハッキングされてたんだっつーの。
もういいですよ、それ。
自分でも無理があるな、と思い始めていたのでいくおはそれ以上言うのは止めておいた。
立ち上がって入り口のドアの脇にあるホワイトボードを見ると、押田事務所からは昼過ぎに戻ってくることになっている。
あはは。たみちゃん帰ってくる。帰ってきたらトイレ行くだろうし、うんこもするだろう。女子トイレの個室は三つあって真ん中の一つに仕掛けてきたから、当たる確率は三分の一だ。一日に一回うんこをするとして、だいたい三日あればカメラに映っているというわけだ。
これは紛れもない犯罪だったが、いくおの罪の意識は変態性欲に勝てなかった。もうたみちゃんのうんこのことで頭がいっぱいで、それどころではなかった。
押田事務所の社長の押田、あいつヤバいっすよ。
笹村はまた余計なことを口にする。
ヤバいって?
何も知らないいくおは素直にそう訊き返す。
あいつ結婚して子供もいるのに、きれいな自分好みの女見ると片っ端から手出しているらしいっすよ。
手を出すとは?
だからヤリまくってるってことですよ。だから今頃たみちゃんさんもヤられてるかもしれませんね。
たみちゃんとは昨日したばっかりだったが、まだ完全ではない。肝心の要素が抜けていたし、いくおは射精にも至っていない。不満がたまっていて、押田に取引先というパワーとあのむんむんする濃い顔の男特有の獣臭さを前面に押し出されれば、たみちゃんはあっというまにケツを突き出し、股を開くだろう。
いや、鷲見さんに限ってそんなことあるわけないじゃないですか。
柳崎は軽薄な口調でそう言った。うわさでは、鷲見多実は社内と取引先の男全員と関係を持っているということだった。そのうわさが広まって、取引先や顧客がどんどん増えていっている。
そうだ。お前、こんど鷲見の悪口言ったら承知しないぞ。
悪口なんか言ってないっすよ。おれはただ押田……。
ようするにそう聞こえたってことだよ。だったらもうそれは立派な悪口だろうが!
いくおは笹村の眼鏡ニキビ面を睨みつけながら、一喝した。すると笹村は何か言いかけたが、口籠って黙り込んだ。
昼過ぎにたみちゃんは予定通り帰ってきて、三時から会議が始まった。
その日は仕事をする振りをしながらネットサーフィンをして一日過ごし、夜の九時を過ぎるとオフィスにはいくお以外誰もいなくなった。
したり顔でデスクを離れると、いくおはそっと女子トイレに忍び込んだ。真ん中の個室を開け、便座の裏につけたカメラを回収する。
楽しみで楽しみでしょうがなく、すぐにカメラからSDカードを抜いてパソコンに挿入した。
早送りで見ていくと、はじめの一時間半ほどは誰も来ず、そこから掃除のおばさんが映り込んだが、いい加減にブラシで便器をこすって流し、便座を上げることもなく出て行った。そこから三十分ほどで総務の柴田佐紀が映り、尻をむき出しにしてマンコと肛門を晒しておしっこをしてトイレットペーパーで拭いて出て行った。
いくおのモノは反応せず、へーといった感じだった。あまりにも恥ずかしげな様子がなく堂々と突き出していて、じゃーじゃー出しているために、そこに性的な要素が入り込む余地がないのだ。
それからも一時間に二、三人ほどがおしっこやうんこを出していったが、それはただただ排泄行為というだけのもので、いくおは興奮や歓喜など微塵も感じられず、ぼんやりと四倍速の早送りで観るだけ観た。あー、はー、そうですか、といった感想だった。
お目当てのたみちゃんは出て来ず、これだけの女性の排泄行為を目にして、鷲見多実の排便を見たとしても果たして性的興奮を得られるのか自信がなくなってきた。
あー、もうやめよう。こんなことはバカげている。
そう思っていくおは動画の再生をやめた。そして、パソコンをシャットダウンして帰ろうとしたその時、エレベーターの開く音がして、青い制服を着た警察官が二人オフィスに入ってきた。
あー、すみません。ビルの警備の方から通報を受けて、あなたが女子トイレに入ってそこにあるものを手にして出てくるところを、警備室のカメラで見てました。
そう言って眼鏡をかけた長身の警察官は天井を指差した。そこにはたしかに黒い防犯カメラが備え付けられている。
そして、いくおのデスクに近づくと、マウスの横に置かれていた黒いSDカードを取ってジップロックのようなケースに入れた。
これに入ってるんですよね。ちょっと署まで来てもらう感じになります。
あぁ、もう終わりだ、といくおは思ってここで舌を噛んで死んでやろうかと考えた。
下にパトカー待たせてありますんで、すぐ行きますよ。荷物とか上着とかも持ってくださいね。
ああ、もうこんなことならあのとき土下座をしてでもうんこをしてもらっておけばよかった。たみちゃんの顔も尻もまんこも肛門も、もう見られない。
[了]